家船の星空

 広島県竹原市二窓の明治33年生まれのおじいさんは、絹を持って、すかして明けの明星を見た思い出を語りはじめました。

 「オオボシいうのが、夜明けに出るのがあるわいな。それが太い。それが大きな。オオボシいうてね、絹で見たら、九つになって見えるのじゃ。絹、持って見たらね、三つずつ並んで九つある星もあるんだ。絹、持って見たら、九つなって見える星があるんだ」

 竹原市二窓には、昔、家船がありました。船が住居になっていて、家船で生まれて育った人もいました。

 目を閉じて、家族みんなを乗せた船が、星空の下を進んでいく光景を想像します。子どもたちの歓声が星空に響きます。オオボシが現われました。ものすごい光です。思わず絹をもって、すかして見ました。すると、いくつにも見えました。こりゃあふしぎなもんだ。

「見えるか? 見えない? 見えるよ。見て見て、ほら」

 子どもも大人も、みんなで見ました。

 家船で生活していましたから、学校へはほとんど行くことができませんでした。学校で天文を習ったことはなかったのですが、天文の知識はもっていなかったのですが、自分の目で星を見ることにつけては、誰にも負けはしませんでした。それだけではありません。何というか、うまく表現できませんが、心で星を見ることができたのです。

 

自宅(兵庫県芦屋市)から見た「おおぼし」

 

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