シリウスとの出会い
夏休みがはじまった頃、まだ全天で最も明るい恒星シリウスと出会うことはできません。
オリオン座三つ星とは夏休みの最初から出会うことができますが、シリウスを待つ間に薄明が進み、朝焼けのなかに星ぼしが吸い込まれていってしまうのです。
シリウスとの出会いは8月上旬頃です。
シリウス(アオボシ)との出会い(湯村 宜和氏撮影)
おじいさんの話を聞きながら、昔の人びとの暮らしとシリウスについて考えよう!
★広島県福山市鞆町のおじいさん(明治33年生まれ)の話
シリウスをオリオン座三つ星の相手の星一ミツボシノアイテボシと呼んでいました。
「ミツボシノアイテボシいうてな、ミツボシのほとりに大きい星がひとつ出るわな。それを見て、ミツボシノアイテボシやいうて、私ら言いますわな。ほかの星の倍も……、三倍もあるような。ふつうの星よりな、大きい星」
ほかの星の3倍もあるオリオン座三つ星の相手「シリウス」と出会うことのできた喜びは大きかったのです。
★北海道積丹郡積丹町美国町のおじいさん(明治41年生まれ)の話
北海道積丹半島のおじいさんは、いちばん遅くのぼってくるシリウス(アオボシ)の出にいちばんイカが釣れると語りはじめました。
「それからやっぱり二時間か二時間ちょっとあまりあとに、アオボシという星があがるの。数ある星のなかでアオメしてひかるの。その星がいちばんつく。その星とアカボシがつくの。どっちの星もつくけど、アオボシちゅうのがいちばんつく。完全につくだ。そのかわりずっと時間がおそいのよ」
アオボシはシリウス、アカボシはアルデバランのことです。実際はシリウスは白色ですが、青色と観察し、アオボシと呼んでいるケースが多いのです。
★ 宮城県本吉郡唐桑町津本のおじいさん(大正5年生まれ)の話
宮城県唐桑町のおじいさんも、シリウス(アトボシ)の出を目標にしました。
「イカなどはね、イカなどは星勘定でね。星の時間帯でアトボシまで見ていこうかとかね。アトボシ出たからもう漁がないから帰ろうか―とか」
プレアデス星団の出から星空の下で働きました。アルデバラン、オリオン座三つ星と姿を現すのですが、シリウスとはなかなか出会えません。でも、シリウスの出にこそ漁があると信じて待ったのです。
世界中でどれくらいの人がシリウスの出を待ったのでしょうか。
古代エジプトの人びとは、シリウスの出でナイル川の洪水の季節を知りました。
例えば、紀元前2500年のシリウスは現在よりも約18日早く出会うことができます。
何百年、何千年の歴史のなかにひとりひとりの暮らしとシリウスとのかかわりがありました。
シリウスを見て感じること、そのかかわりはどのように変化していったのでしょうか。
歴史のひとコマひとコマで人びととシリウスがしっかりと結びつきながら、地域や時代の違いをこえて二一世紀まで伝えられてきた伝承が失われてしまってはいけません。
これからもひとりひとりの暮らしのなかで、シリウスを見て、そおして、シリウスのことを、シリウスを見てきた人、今どこかで同じシリウスを見ている人のことを、考えてみませんか。