(星座になった民具2)

 酒桝

   

    酒桝星(湯村宜和氏撮影)             鹿児島県日置郡松元町の一合桝(鹿児島県歴史資料センター黎明館所蔵)       

     

 鹿児島県川辺郡知覧町の計量マス(一升)(鹿児島県歴史資料センター黎明館所蔵)

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酒桝星について

 2005年4月鹿児島県枕崎市汐見町のCさん(大正14年生まれ)は、「サ力マス言ってた。洒を入れてマスではかる形(柄のついた)になってる。学識名はオリオン」と教えてくださった。

 昔は、酒屋さんにびんを持って、サカマスではかって入れた。一合桝、五合桝、一升桝とあった。上記の酒桝は、一合桝と一升桝である。

酒代を払わずに逃げたスバルを追いかける酒桝星

 内田武志氏は、次のような鹿児島県川辺郡枕崎町(現 枕崎市)の伝承を記録している。

「スパイが酒を飲んでその酒代を払わずに逃げたので、その後を酒屋のサカマスが追いかけて、西方でようやく捕えたので、沈む時は一しょになるのだ」(内田武志『星の方言と民俗』岩崎美術社、1973、85〜88頁)

 「西方でようやく」と記されているように、そんなに簡単には追いつかない。

 星が追いかけるという伝承については、アイヌの伝承が北海道において記録されている(吉田巌『アイヌ古事風土記資料 No.3』帯広市教育委員会、1957、97頁)。ギリシア神話においても伝えられている。

 オリオンがプレアデス星団に追いつく緯度と時代の星空を考えるというのは天文民俗学ならではのテーマである。

 西暦1900年の場合、鹿児島県枕崎市においては、プレアデス星団がのぼってからオリオン座三つ星までがのぼるまでの時間差は約168分であるが、沈むときには約42分まで縮まる。たとえば、プレアデス星団が高度約0.9度になったとき、オリオン座三つ星の高度は約10度と低く、追いつきつつある状態になる。 北海道河西郡芽室町の緯度では約203分が約8分へと追いつき、ほぼ伝承の通りの現象が起こり、北海道稚内市の緯度(北緯約45.4度)では完全に追いつく。 そして完全に追いつく地点は、西暦1500年には北緯約47度、1000年には北緯約50度と時代をさかのぼるにつれて北の方へ移動していく。

 完全に追いつく地点、即ち伝承の形成条件を完全に満たす地点が時代をさかのぼるにしたがって北へ移動することは、北の方で形成された伝承が南へ伝えられていった可能性があることを示している。少なくとも、南で形成されたものが北へ伝えられたと考えるのは困難である。

 伝承の形成条件から考えると、プレアデス星団が天頂を通り農耕の目標になったという沖縄県の伝承については、南の方から伝えられた可能性がある。それに対し、星が追いかける伝承は北の方で形成された可能性があろう。結論を急いではならないと思いながらも、はるか北へ、さらに南へ、星を見て語りあった人びとの姿を想像する。

 

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