めがねぼし

  湯村 宜和氏撮影

 

  小さい船で漁に出かけて、島に帰るのは盆と正月、そして祭りのときぐらい……。不漁が続くと、それすらも不可能になることも……。ふるさとは遠く離れていても毎日の暮らしに星がありました。

 広島県の豊島のおじいさん(明治43年生まれ)は、メガネボシという2つ並んだ星を教えてくださいました。

「メガネボシいうのはのお、二つのお……」

 メガネボシは、ふたご座のカストルとポルックスのことです。

 ふたご座のカストルとポルックスは、次のように目をイメージすることが多かったのです。

●カザエイ……工イに属する魚の目を描きました。(兵庫県明石市)

●ガンノメ……蟹の目を描きました。(兵庫県播磨町)

●ネコノメボシ……猫の目を描きました。(鹿児島県屋久町)

  カストルとポルックスは、暮らしのなかで、様々な目に関係するイメージをふくらませてくれたのです。

 メガネボシが星空に描かれたのはいつ頃でしょうか。おそらく、暮らしのなかに眼鏡が登場したときから、そんなに年月が過ぎていなかったような気がします。日々の暮らしを星空に描き続けたのですから、眼鏡が登場したらすぐメガネボシを描いたような気がします。

「星を見て、心のなかにひとつのイメージを創る……」

「星と星を線でつなぎ、様々な物や形を描いていく」

 それらは、人びとにとって、紙に絵を描くよりも前からの営みでした。ひとりひとりのつくったイメージを語り伝えあうというすばらしい営みが、積み重ねられ、親から子へ、年上から年下へと、時代を超えて共有されていったのです。

 現代を生きる私たちに様々なメディアが爆発的に迫ってきます。それらを当然のこととして無抵抗に受け入れていく毎日のなかで、星空という視覚情報に対し不感症になってしまったのではないでしょうか。星ぼしの配列、明るさ、色、動き、ひとつひとつに感じなくなってきているのではないでしょうか。だからこそ、星を見て、ひとりひとりが感じ想像したことを語り伝えあった星の和名・伝承に、価値を見い出したいと思います。そして、星空を団体旅行ツアーのように忙しく次から次へと案内されるのではなく、星と星をひとりひとりが自由に線で結んで様々なイメージを描くことができれば、とてもすばらしいことだと思います。

 

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